香道の魅力って?
〜香りの中に、静けさと豊かさを見つける〜
香道は、香りを「聞く」文化――そう言われても、初めての方には少し不思議に聞こえるかもしれません。
けれど、香道の魅力はまさにその“不思議”にこそ宿っています。

香道では、目には見えない香りを通して、五感を澄ませ、心を整え、季節や物語に耳を澄ますように過ごします。
空間には言葉のない静寂があり、ほんの一瞬、香木からたちのぼる微かな香りに、
まるで遠い記憶や心の奥深くを揺さぶられるような、不思議な時間が流れます。
香りは、誰のものでもなく、かたちもありません。
けれど、その場にいる人すべてが同じ香りを「聞く」ことで、ひとつの物語を共有します。
それは、まるで心を澄ませて和歌を詠むような、美しくも奥ゆかしい体験です。
香道には、華やかさはありません。
けれど、その静かな美しさと、研ぎ澄まされた感性の交差にこそ、
現代に生きるわたしたちが惹かれる“本質的な豊かさ”があるのではないでしょうか。
日常の忙しさをひととき離れ、自分自身と向き合うような時間――
香道は、その静けさをそっと差し出してくれる芸道なのです。
〜変わりゆく灰に、変わらぬ心を重ねる〜
香道の魅力は、静けさの中にあります。
けれどその静けさは、ただ整然としているだけではありません。
実は、そこには日々異なる灰の表情に向き合い、わずかな変化を受け止める“繊細な手”と“澄んだ感性”が息づいています。

香道では、香木を炭の熱によって温め、香りを立ち上らせます。
その銀葉に乗せた香木は、丹念に整えられた「灰」の上にのせられる。
けれど、その灰はまるで生きもののように、湿度や温度、季節の気配さえも映し取り、
同じように見えて、まったく同じ表情を見せる日は一日としてありません。
灰の湿り具合、炭の熾り、空気の流れ——
その一つひとつが、香のたちのぼる温度と香りの輪郭に影響します。
だからこそ、お手前を執る人は、今日の灰を、今日の火味を、今日の空気を感じながら、
その場限りの“最も美しい香り”を生み出すよう、心を尽くすのです。

数年後、その気持ちが、このように香炉灰の色となって表れていくのです。
香道は、かたちだけをなぞる芸ではありません。
変わりゆく自然とともに香りを生み出し、移ろいゆくものをそのまま受けとめる――
そこには、静かでありながら、芯のある美しさがあります。
香りは、二度と同じには立ち上りません。
たとえ同じ香木であっても、その日の灰、その手前、その瞬間だけの香りがあるのです。
だからこそ香道は、“一期一会の芸道”とも言えてしまえるのかもしれません。
この奥深い体験を、どうぞご自身の五感で味わってみてください。
5月14日より、大丸東京店にて「香席」をご用意しております。
お香の香りはもちろん、灰のやわらかさ、香炉のぬくもり、そしてその場に流れる静けさまで。
五感を澄ませるひとときを。
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